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ジャン・ド・ラ・ヴィル/フォーレ「幻想の水平線」 2

ガブリエル・フォーレ(1845-1924)
02 /17 2008
Je me suis embarqué 「ぼくは船に乗った」

「幻想の水平線」第2曲。ピアノ伴奏が描写する波音は、大洋に浮かぶ船の船腹に打ちつける、周期の長い大波に変わっている。幻想のなかで詩人は旅立ったが、それは一体どこに向かう旅なのだろうか。

切れ目無く歌われる朗唱と、ピアノ伴奏の単調なリズム。しかし 波のリズムが突然声部に乗り移る箇所がある。それは Pour me bercer, comme un enfant, au creux des lames.「波の窪みで、子供のようにぼくを揺すってくれる・・」の箇所で、主人公を水底に引き込もうとする波が、つかの間彼に憑依したかのようだ。

金原氏は、la mer 「海」と la mère「母」が同音であることを指摘する。それは魅入られた者への、退行と死の誘惑であろうか。

Je me suis embarqué sur un vaisseau qui danse
Et roule bord sur bord et tangue et se balance.
Mes pieds ont oublié la terre et ses chemins;
Les vagues souples m'ont appris d'autres cadences
Plus belles que le rythme las des chants humains.

ぼくは船に乗った、波に踊るように
右舷に左舷に、そして船首から船尾へと揺れる船に。
ぼくの足は、もう大地とその幾多の道を忘れた。
しなやかな波は、ぼくに教えてくれた
人の歌に疲れたリズムよりもはるかに美しい別の律動を。

A vivre parmi vous, hélas! avais-je une âme?
Mes frères, j'ai souffert sur tous vos continents.
Je ne veux que la mer, je ne veux que le vent
Pour me bercer, comme un enfant, au creux des lames.

兄弟たち(大地)よ、君たちの間で、ぼくは魂を持って暮らしていたのだろうか。
ぼくは、君たちのいずれの大陸でも苦しんだ。
ぼくが欲しいのは海だけ、風だけ、
波の窪みで、子供のようにぼくを揺すってくれるから。

Hors du port qui n'est plus qu'une image effacée,
Les larmes du départ ne brûlent plus mes yeux.
Je ne me souviens pas de mes derniers adieux...
O ma peine, ma peine, où vous ai-je laissée?

海を出ると、港はもはや消えた幻に過ぎない。
出発の涙はぼくの目をもう灼きはしない。
ぼくは今、別れてきたことも思い出さない。
おお、ぼくの苦しみよ、苦しみよ、君たちを何処へ置いてきたのだろう?
(金原礼子氏の訳に、少々変更しました)

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