ヤナーチェク 「プラハ古城の歌」III

レオシュ・ヤナーチェク(1854-1928)
10 /30 2009
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「プラハ古城の歌」(1916年)
原詩F. S. プロハースカ / 作曲 レオシュ・ヤナーチェク(1854-1928)

第三曲「ベルヴェデーレ離宮」Belveder ♪

Kamenná báseň v květné houšti,
花咲く茂みのなかの石の詩,
zelený smaragd v prstenu!
指輪の緑色のエメラルドよ!
Lípa kol nízké větve spouští,
菩提樹は一面に低い枝を垂らす,
stříbrných plné pupenů.
銀色の若芽を一杯につけて。

Hymnický pozdrav věčné krásy,
永遠の美を称える讃歌は,
vypjatým jásá obloukem
大きな抑揚で鳴り響き,
Chrtů pár sivých jak hrá si
つがいの灰色の猟犬は遊ぶ,
ve skocích travným paloukem.
緑の芝生を跳び回って。

Akordem harfa v sladkém roztoužení,
調弦された竪琴は,甘い恋の悩みを
zahradou tiše zazněla.
庭園に静かに響かせた。
Do strun to sáhla v sladkém snění
夢見がちに弦をつまびくのは,
pravnučka rodu Jagella.
ヤゲロ家(ポーランド王家)の孫娘*。

*ハプスブルク家のフェルディナンド一世(在位1526-1564)の王妃。彼女の兄弟,ヤゲロ家のルドヴィク二世(ボヘミア王・ハンガリー王)が1526年にモハーチの戦いでオスマン軍に敗死したため、両国の王位はフェルディナンド一世の手中に入った。彼は1538年プラハ城の王宮庭園に、王妃アンナのためのルネサンス様式の夏の離宮,ベルヴェデーレを建てた。

Tóny se linou šepotavě,
弦の音は囁くように流れる,
jak by kohos vábily.
誰かをいざなうかのように。
A květy rudé pučí žhavě,
赤い花は燃えるように咲き誇る,
do sněné krásné idyly.
夢のように美しい牧歌のなかに。

Leč báseň klame. Tak být mělo.
この詩は幻想だ。それも仕方がない。
Královno, kdes zůstala?
王妃よ,どこにいるのか?
Mrtvé zde leží tvoje tělo,
あなたは骸となってここに横たわり,
a harfa darmo, darmo čekala.
竪琴はむなしく待つばかり。

A věže tvrdé za příkopem
濠のむこうの堅固な塔は
strmě se poblíž zdvíhají,
迫るように聳え立つ,
a okénka v mřížích, děrou stropem
そこは格子窓,天井穴から
buřiči v hlubeň padají.
反逆者たちが落ちたところ。
(「ダリボル」の伝説を暗示)

A jejich kletby, jejich stony
彼らの呪詛,彼らの呻き声は,
v zahradu drsně zalehnou.
庭園に不気味にこだまする。
Přehluší, harfo, tvoje tóny.
かき消される,竪琴よ,お前の音は。
Ach, požáry vůkol vzplanou.
ああ,辺りに炎が燃え上がる。

Budou se nové děje kouti,
新たな事件の機が熟し,
a bratr bratra s trůnu rve,
弟が兄を王座から追う,
v útulku lásky koncem pouti,
この愛の隠れ家で,放浪の末に,
šílený král lká hoře své.
狂気の王*が,自分の苦い運命を嘆いたのだ。

*フェルディナンド一世の孫,ルドルフ二世はプラハを神聖ローマ帝国の首都とし、芸術・科学・錬金術に傾倒した,しかし1612年,弟マティアスによって廃位された。

Oj, přiletí vichry, bouř vše rváti
おお,強風が来て,恐ろしい嵐が
započne kolkol příšerná.
あたりのものすべてを吹き散らす。
Ty, ty budeš státi,
それでもお前,お前は建っていよう。
kamenná básni nádherná!
石に刻まれた無比の詩よ!

*マティアスはプロテスタントに対する弾圧を強行し,1618年に30年戦争の勃発を招いた。翌年マティアスは死去し,後継者をめぐってハプスブルク家とボヘミアのプロテスタント貴族はプラハ郊外のビーラー・ホラで対峙したが,戦いは前者の圧勝に終わった(1620年)。国土は戦禍に荒廃し,多くの亡命者を生んだ。

Stavěla láska tvoji pýchu
愛がお前の誇りをうち立てて,
tesala krásu v kameny,
美しさを石に刻みつけた。
co jinde drtil českou líchu
一方でボヘミアの野を
běs hněvu divě zjitřený.
たけり狂う悪霊が引き裂いた。

Och, kdyby láska jenom žila,
おお,愛だけが生き,
jdouc krajem s přízní ve zraku,
国中を結んでいたら,
ubohá země, kde bys byla,
哀れな祖国よ,お前のいた国に
co by bylo zázraků!
多くの奇蹟も起こったろうに!
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*写真は池田和生さんの撮影です。演奏は、共産圏時代の代表的な合唱団によるもの。

ISATT

愛好する歌曲・カンタータの試訳集です。