鴨長明 - おもひあまり うちぬるよひの

コンデジ(Olympus & Sigma)と日記
08 /29 2006
隔海路恋といへる心をよめる

思ひあまりうち寝る宵のまぼろしも 浪路を分けて行きかよひけり

鴨長明(千載集936)

「恋しさに堪えかねて眠る宵のわたしの幻も、海を隔てた恋人のもとへ波路を分けて行き通った。長恨歌に歌われた方士のように。」



鴨長明は「方丈記」の作者とイメージが強いと思う。私も学生時代に授業で読んで、飢饉や天災で惨憺とした世情の克明な描写に気分が重くなった記憶がある。しかし最近になって「千載集」や「新古今集」で彼の歌を読み、その若き日の別の一面に気付かされた。意外にも浪漫的なのだ。

 新古今集では10首入撰しているが、作風は掛詞や縁語を駆使したまったくの新古今風で、なかなかの秀歌もある。しかし私が心引かれるのは、千載集にただ一首取られたこの歌。

 恋に思い悩む自分の幻影が、波を分けて恋人のもとに向かう、という内容。これは白居易の「長恨歌」で、玄宗皇帝(「漢皇」)が楊貴妃の転生という仙女に逢うために、方士の手引きで海上の仙山に赴くという物語を下敷きにしているという。長明は「(私の)まぼろしも」の一言でそれを暗示している。

 このくぐもった色彩を感じる声調とイメージは、長明の若き日の佳作として印象的だ。暗い海を恋人の面影を求めてさまよう幻影の姿が脳裏に浮かぶ。


写真は Photo fuzzy さんの撮影です。 
http://www.ta-sa.com/fuzzy/material/index.html



ISATT

愛好する歌曲・カンタータの試訳集です。