エクトル・ベルリオーズ 歌曲「ブルターニュの若い牧人」

エクトル・ベルリオーズ(1803-1869)
10 /08 2015
エクトル・ベルリオーズ 歌曲「ブルターニュの若い牧人」

歌曲集「荒地の花」Fleurs des Landes, op. 13 より
第4曲

原詞 オーギュスト・ブリズー(1803-1858)の詩「ブルターニュ人の歌」(1835) より
楽譜


Dès que la grive est éveillée,
ツグミが目を覚ますと
Sur cette lande encor mouillée
まだ朝露に湿るこの荒地に
Je viens m'asseoir
私は腰を下ろす、
Jusques au soir;
日が沈むまで。
Grand mère de qui je me cache
私の苦手なおばあさんは、
Dit: Loïc aime trop sa vache
言ってる、ロイは牛のことしか頭にないと。
Oh! Oh! Nenni, da!
いえ、いえ、そうではありません!
Mais j'aime la petite Anna.
僕は可愛いアンナが好きなんです。

A son tour, Anna, ma compagne,
牧童仲間のアンナは
Conduit derrière la montagne,
あの山の向こうに連れて行く
Près des sureaux,
ニワトコの樹のそばに
Ses noirs chevreaux;
黒ヤギの群れを。
Si la montagne, où je m'égare,
あの山は道に迷うから、
Ainsi qu'un grand mur nous sépare,
高い壁のように僕たちを隔てている
Sa douce voix,
でもあの娘の甘い歌声は
Sa voix m'appelle au fond du bois.
森の奥から僕を呼んでいる。

Oh! sur un air plaintif et tendre,
ああ!悲しくて優しい歌声を
Qu'il est doux au loin de s'entendre,
彼方から耳にするのは何て甘美なことだろう
Sans même avoir
お互いの
L'heure de se voir!
姿を目にしてもいないのに
De la montagne à la vallée
山から谷合いへと
La voix par la voix appelée
声と声は呼び交わす、
Semble un soupir
それは溜め息のよう
Mêlé d'ennui et de plaisir.
愁いと歓びが混じり合って。

Ah, retenez bien votre haleine,
ああ、息を止めておくれ
Brise étourdie, et dans la plaine,
軽率なそよ風よ、そしてこの平原、
Parmi les blés,
麦畑のなかを
Courez, volez!
駆け抜けて、飛び去っておくれ!
Dieu! la mèchante a sur son aile
神様!あの意地の悪い風は、翼に乗せて
Emporté la voix douce et frèle,
運び去ってしまいました、あの甘美で微かな声を
La douce voix
あの優しい声は、
Qui m'appelait au fond du bois.
森の奥から僕を呼んでいたのに。

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ベルリオーズの知られざる歌曲集から一曲。ベルリオーズの作品は「楽器編成のはなはだしい拡張や、色彩的な管弦楽法」(Wiki)という、大言壮語的な面が特徴と言われますが、、一方でこうした清楚な曲想の作品が点在していて、同時代のロマン派の作品よりずっと現代的に聞こえます。面白いことに、この曲は冒頭にNaïvement(無邪気に)と指定があって、村人が民謡を歌っているような素朴な趣を感じます。そしてこのホルンのオブリガート!この響きは夕暮れの村の大気「山から谷合いへと/声と声は呼び交わす、それは溜め息のよう/愁いと歓びが混じり合い」と歌われるブルターニュの村の情景を、目の前に生き生きと映し出してくれます。

エクトル・ベルリオーズ 歌曲「囚われの女」

エクトル・ベルリオーズ(1803-1869)
12 /04 2014


エクトル・ベルリオーズ 歌曲「囚われの女」

原詩 ヴィクトル・ユゴー (「東方詩集」より)
作曲 エクトル・ベルリオーズ (作曲1832年、管弦楽版1848年)

Si je n'étais captive,
私が捕囚でなかったなら
J'aimerais ce pays,
この国を好きになったのに。
Et cette mer plaintive,
このすすり泣く海も、
Et ces champs de maïs,
とうもろこし畑も、
Et ces astres sans nombre,
無数の星々も、
Si le long du mur sombre
この陰気な壁に沿って
N'étincelait dans l'ombre
物陰に光らなかったなら
Le sabre des spahis.
トルコ騎兵のサーベルが!
*spahis「北アフリカ原住民騎兵」。舞台が1830年のフランスのアルジェリア占領以前なので、トルコ騎兵となる。

Je ne suis point tartare
私はタタール人ではない
Pour qu'un eunuque noir
だから黒人の宦官が
M'accorde ma guitare,
ギターを爪弾いて
Me tienne mon miroir.
鏡を差し出すことはない。
Bien loin de ces Sodomes,
このソドムから遠く、
Au pays dont nous sommes,
私たちの国では
Avec les jeunes hommes
若い男たちとともに
On peut parler le soir.
夕べに語らうことができる。

Pourtant j'aime une rive
それでも私はこの岸辺が好き
Où jamais des hivers
ここでは冬の
Le souffle froid n'arrive
冷たい風は来ない
Par les vitraux ouverts.
開いたガラス窓から。
L'été, la pluie est chaude,
夏には、雨は暖かく
L'insecte verte qui rôde
緑色の昆虫が歩きまわり
Luit, vivant émeraude,
輝く、生き生きとしたエメラルド色に
Sous les brins d'herbe verts.
緑の草の下で。

J'aime en un lit de mousses
私は好き、苔の寝床の上で
Dire un air espagnol,
スペインの歌をうたうのが
Quand mes compagnes douces,
すると私の優しい仲間たちが
Du pied rasant le sol,
足で地面を打ち鳴らしながら
Légion vagabonde
気ままに集まり
Où le sourire abonde,
笑顔にあふれて
Font tournoyer leur ronde
輪になって踊る
Sous un rond parasol.
丸いパラソルの下で。

Mais surtout, quand la brise
だけど一番好きなのは、そよ風が
Me touche en voltigeant,
私を軽やかに撫でるとき、
La nuit, j'aime être assise,
夜には、座っているときが好き
Être assise en songeant,
私は座って夢見心地で
L'oeil sur la mer profonde,
深い海を見つめる
Tandis que, pâle et blonde,
そのとき、白金色の
La lune ouvre dans l'onde
月は広げる、波の中に
Son éventail d'argent.
銀色の扇を。

Ah! Si je n'étais captive,
ああ私が捕囚でなかったなら
J'aimerais ce pays,
この国を好きになったのに。

エクトル・ベルリオーズ 「アイルランド歌曲集」より

エクトル・ベルリオーズ(1803-1869)
11 /30 2014
エクトル・ベルリオーズ 「アイルランド歌曲集」Irlande (op.2) より

ベルリオーズが若き日に愛好した、イギリスの詩人のフランス語訳による声楽曲集。オリジナルはピアノ伴奏の独唱・重唱・合唱曲集(全9曲)です。1830年に出版され、後にオーケストラ伴奏版も書かれました。

この清楚な曲想は、フランス歌曲の揺籃を告げるように響きます。ヴェロニク・ジャンスの美声でどうぞ。



「美しき旅の女」La Belle Voyageuse

Elle s'en va seulette; l'or brille à son bandeau;
彼女はひとりで旅している。髪留には金が輝やき
Au bout de sa baguette etincelle un joyau.
杖の先端には宝石がきらめく。
Mais sa beauté surpasse l'éclat de ses rubis.
だが彼女の美しさはルビーの眩さにも勝り、
Et sa blancheur efface la perle au blanc de lys.
肌の白さは白百合の真珠のような輝きを打ち消さんばかり。

Belle, ainsi sans injure penses-tu voyager?
美しいひとよ、怪我もせずに旅ができると思うの?
Ta beauté, ta parure appellent le danger.
お前の美しさ、お前の装身具は危険を招く、
Les mains les plus fidèles tressaillent devant l'or,
どれほど忠実な手も金を前にはおののき、
Et les coeurs près des belles tiennent bien moins encor.
美しいひとを前にした心はさらに弱い。
*tiennent 接続法現在 三・複

Chevalier, dans cette île mon âme ne craint rien;
騎士どの、この島では私は不安など感じません。
L'honneur en cet asile est le souverain bien.
名誉は、この隠れ家では最も重んじられるもの
Toujours devant nos larmes on le vit s'arrêter.
いつも涙を目にすれば、ひとは思いとどまります。
Pour mon or ou mes charmes que puis-je redouter?
私の金や魅力を、何を恐れることがありましょう?

Aux regards découverte, son souris virginal
無垢のまなざし、彼女の純朴な微笑みは、
Par toute l'île verte lui servit de fanal.
緑の島の至る所で、彼女の舷灯の代わりになった。
Aussi l'as-tu bénie, des harpes doux pays,
そうしてあなたは祝福した、土地のハープの優しい音色で。(tu→ île ?)
Celle qui se confie à l'honneur de tes fils.
あなたの息子たちの名誉を信じたひとを。

エクトル・ベルリオーズ 歌曲「オフィーリアの死」

エクトル・ベルリオーズ(1803-1869)
11 /22 2014
エクトル・ベルリオーズ 歌曲「オフィーリアの死」

原詩 シェイクスピア「ハムレット」のフランス語訳より(第四幕第七場)
作曲 エクトル・ベルリオーズ(1803-1869)



Auprès d'un torrent, Ophélie
急流のそばで、オフィーリアは
Cueillait tout en suivant le bord,
夢中で花を摘みました、川岸で
Dans sa douce et tendre folie,
狂いながらも優美な風情で。
Des pervenches, des boutons d'or,
ツリギキョウや、キンポウゲや
Des iris aux couleurs d'opale,
オパール色のアイリスや
Et de ces fleurs d'un rose pâle,
桜色の花々を、
Qu'on appelle des doigts de mort.
「死の指」と呼ばれる花ですが。

Puis élevant sur ses mains blanches
そのとき彼女の白い腕にかかげられたのは、
Les riants trésors du matin,
朝の美しい宝石のような花々、
Elle les suspendait aux branches,
彼女はそれを枝に懸けようとしました
Aux branches d'un saule voisin;
傍らの柳の枝に。
Mais, trop faible, le rameau plie,
しかし曲がった細枝は脆すぎて
Se brise, et la pauvre Ophélie
折れて、可哀そうなオフィーリアは
Tombe, sa guirlande à la main.
落ちました、花輪を手にしたまま。

Quelques instants, sa robe enflée
そのとき、彼女の着ていたドレスは
La tint encor sur le courant,
彼女を流れの上に浮かべていました
Et comme une voile gonflée,
風をはらんだ帆のように。
Elle flottait toujours, chantant,
彼女は漂いながら、まだ歌っていました
Chantant quelque vieille ballade,
歌っていました、古いバラッドを
Chantant ainsi qu'une naïade
歌っていました、ナイアドが
Née au milieu de ce torrent.
急流から生まれたときのように

Mais cette étrange mélodie
けれど、その風変わりな旋律は
Passa rapide comme un son;
ただ一音のように、流れ去っていきました。
Par les flots la robe alourdie
川の水で彼女のドレスは重くなり、
Bientôt dans l'abîme profond;
やがて深い水底へと
Entraïna la pauvre insensée,
沈めていきました、可哀そうな狂気の娘を。
Laissant à peine commencée
残しながら、歌いだしたばかりの
Sa mélodieuse chanson.
彼女の流麗な歌を。

Cueillait→Cueillir「摘む、収穫する」、rose pâle..淡い薔薇色、桜色に近い。riant(文語)美しい、花咲く、saule柳、 rameau細枝、à peineほとんど⋯ない。

オーケストラ・合唱版


私が好きなベルリオーズは、こうした清爽な音楽。ハムレットに捨てられたと思い込み、狂気の果てに溺死するオフィーリア、彼女の最後の歌は、ピアノが奏でる小川の声、悲しみと恋の幸せな記憶の交錯するヴォーカリーに乗って流れていく。水の中に消えていくまで。

ISATT

愛好する歌曲・カンタータの試訳集です。