モーリス・ドラージュ 歌曲「ラ・フォンテーヌの2つの寓話」より

モーリス・ドラージュ(1879-1961)
09 /30 2014


原詩 ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ
作曲 モーリス・ドラージュ

「カラスとキツネ」Le corbeau et le renard

Maître Corbeau, sur un arbre perché,
カラス殿は、枝にとまり
Tenait en son bec un fromage.
爪にチーズをつかんでいた。
Maître Renard, par l'odeur alléché,
キツネ殿は、その匂いにつられて
Lui tint à peu près ce langage:
ざっとこんなことを言った。
Hé! Bonjour, Monsieur du Corbeau.
「やあ!こんにちは、カラス殿。
Que vous êtes joli! Que vous me semblez beau!
何と貴殿は立派で、なんとお美しくみえることでしょう!
Sans mentir, si votre ramage
掛け値なしに、もしあなたの囀りが
Se rapporte à votre plumage,
あなたの羽毛に匹敵する(美しさ)なら、
Vous êtes le phénix des hôtes de ces bois.
あなたは森の主の不死鳥でありましょう。」
A ces mots le corbeau ne se sent pas de joie;
こんな言葉にカラスが有頂天にならないわけがなく、
Et, pour montrer sa belle voix,
美しい声を聞かせるために
Il ouvre un large bec, laisse tombe sa proie.
大きくくちばしを開けたので、獲物のチーズは落ちてしまった。
Le renard s'en saisit, et dit: Mon bon monsieur,
キツネはそれを摑んで言った。「よいですかな、
Apprenez que tout flatteur
あなたは知ることです、すべてお世辞というものに
Vit aux dépens de celui qui l'écoute:
聞き入る者は、食い物にされるのです。
Cette leçon vaut bien un fromage, sans doute.
この教訓はチーズひとかけの価値はありますぞ、疑いなく。」
Le corbeau, honteux et confus,
カラスは恥じて、取り乱して、
Jura, mais un peu tard, qu'on ne l'y prendrait plus.
誓いましたとさ、ちょっと遅すぎましたが、二度とかつがれまいと。

モーリス・ドラージュ 歌曲「4つのヒンズーの詩」より4

モーリス・ドラージュ(1879-1961)
12 /07 2011
「マドラスにて:ある美女」Madras: Une belle

原詩 不詳
作曲 モーリス・ドラージュ(1912年、33歳)



Une belle à la taille svelte
ほっそりとした美女が
se promène sous les arbres de la forêt,
森の木陰を散策する、
en se reposant de temps en temps.
ときどき足を休ませながら。
Ayant relevé de la main
彼女は上げる、
les trois voiles d'or
三重の金のベール、
qui lui couvre les seins,
胸を覆っていた薄衣を、
elle renvoie à la lune
そして彼女は月に返すのだ
les rayons dont elle était baignée.
からだに浴びた光の束を。

---

「4つのヒンズーの詩」の第一曲。テキストはサンスクリットの古代詩によるとあるが、詳細は分からない。あるいは港町マドラスに上陸したドラージュが目にした幻の光景か、彼女のかすかな身振り-ヴェールを持ち上げようとする瞬間を描く、詩の四行目につけた伴奏の繊細な響き、月の光と彼女の体の輝きのまじりあう最終行、ことばと管と弦の澄んだ音色!

モーリス・ドラージュ 歌曲「4つのヒンズーの詩」より3

モーリス・ドラージュ(1879-1961)
12 /03 2011
「ベナレスにて:仏陀の誕生」Bénarès: Naissance de Bouddha

原詩 不詳
作曲 モーリス・ドラージュ(1912年、33歳)


En ce temps-là fut annoncé
それは告げられた日のこと、
la venue de Bouddha sur la terre.
仏陀の地上への降臨が。
Il se fit dans le ciel un grand bruit de nuages.
空は雲の噂する声で満ちた。
Les Dieux, agitant leurs éventails et leurs vêtements,
神々は、扇と衣をひらめかせて
répandirent d'innombrables fleurs merveilleuses.
数えきれぬほどの綺麗な花々をふり撒いた。
Des parfums mystérieux et doux se croisèrent
その魅惑の甘い香りは混じりあった
comme des lianes dans le souffle tiède de cette nuit de printemps.
春の夜の生暖かい息吹きに包まれた藤のように。
La perle divine de la pleine lune
満月の聖なる真珠が
s'arrêta sur le palais de marbre,
大理石の宮殿の上にかかる、
gardé par vingt mille éléphants,
二万の象たちに守られ、
pareils à des collines grises de la couleur de nuages.
色とりどりの雲につつまれた灰色の丘のよう。

*fit→se faire単純過去

* * *
地図でみると、このベナレスという街は仏陀が悟りを開き、布教した複数の聖地の近くにある。ドラージュはこれらの地を訪れ、古い仏教画を目にしたのだろうか。声の抑揚はテキストのフランス語を離れてしまって、短い音節のことばを連ねた詩行”comme des lianes dans le souffle tiède de cette nuit de printemps.” も、異国の雑踏で聞こえた声のように響く。そしてこの伴奏も、街の通りを歩き去っていく不思議な奏者たちのよう!別々の響きの音楽を、思うままに演奏しあっているのか。

モーリス・ドラージュ 歌曲「4つのヒンズーの詩」より2

モーリス・ドラージュ(1879-1961)
11 /30 2011
モーリス・ドラージュ 歌曲「4つのヒンズーの詩」より2

原詩 7世紀サンスクリット語の詩
作曲 モーリス・ドラージュ(1912年、33歳)



「ジャイプルにて:もし君が彼女のことを想うなら」Jeypur: Si vous pensez à elle

Si vous pensez à elle,
君は彼女のことを想えば
vous éprouvez un douloureux tourment.
ひどく苦しむ。
Si vous la voyez,
彼女を目にすれば
votre esprit se trouble.
心乱れる。
Si vous la touchez,
彼女に触れれば
Vous perdez la raison.
分別を失う。
Comment peut-on l'appeler bien-aimée?
どうして彼女を恋人とよぶことができよう?
---

「4つのヒンズーの詩」第四曲。
調べてみると、ラヴェルが合奏伴奏の歌曲集「マダガスカルの歌」を書いたのは1926年だから、ドラージュのこの歌曲集の方がはるかに早い。これは非常に先駆的な響きだったと思うし、今聞いても新鮮な色彩感を失っていない。まさに知られざる傑作...フルートの蠱惑の音色!

モーリス・ドラージュ 歌曲「4つのヒンズーの詩」より

モーリス・ドラージュ(1879-1961)
11 /27 2011
モーリス・ドラージュ 歌曲「4つのヒンズーの詩」より

原詩 ハインリヒ・ハイネ
作曲 モーリス・ドラージュ(1912年、33歳)

「ラホールにて:孤独なモミの木」Lahore: Une sapin isolé



Un sapin isolé se dresse sur une montagne
孤独なモミの木が山にそびえ立つ、
Aride du Nord. Il sommeille.
不毛な北の大地に。木はまどろむ。
La glace et la neige l'environne
氷と雪が木をつつみ、
D'un manteau blanc.
白いマントのよう。

Il rêve d'un palmier qui là-bas
モミはヤシの木を夢見る、彼方の
Dans l'Orient lointain se désole,
東方で悲しんでいるヤシを、
Solitaire et taciturne,
一人ぼっちで、口を閉じ
Sur la pente de son rocher brûlant.
焼けるように熱い岩崖の上で。

---

モーリス・ラヴェルの友人であり弟子でもあった作曲家モーリス・ドラージュ(1879-1961)の知られざる歌曲集「4つのヒンズーの詩」より。これはドラージュがインド・パキスタンを旅行中に作曲した曲集で、第二曲はパキスタン北部の街、ラホールで書かれたという。
曲集のタイトルとは異なり、この曲の歌詞はドイツの詩人ハインリヒ・ハイネの詩のフランス語訳によるもの。(オリジナルの詩 “Ein Fichtenbaum steht einsam”にはリストやグリークが付曲している)。ラヴェルの「シェーラザード」や「マダガスカル島の歌」を思わせる東方趣味だが、ドラージュが実際に旅先で体験したであろう民俗音楽の響きが、頬をかすめる風のように濃密に感じられる。このメリスマの響きに調和する管楽器と弦の音色は、フランスの奏者の色彩感が最高に輝く一瞬!

ISATT

愛好する歌曲・カンタータの試訳集です。