バルトーク ピアノ曲「子供のために」より

バルトーク・ベーラ (1881-1945)
09 /14 2011


Youtubeで興味深い音源をみつけた。バルトークが1900年代初頭に民謡のフィールドワークで収集した旋律と、その実作品へのトランスクリプション。ピアノ曲「子供のために」第二巻・第37曲ということだが、聴いてみるとまったく同一なのに驚く。こうしてバルトークは直に民謡から自己の音楽の養分を摂取していたわけですね。なるほど。そしてコチシュの粒の揃った美しいピアノの音色!

バルトーク 歌曲集「村の情景」より 3

バルトーク・ベーラ (1881-1945)
09 /11 2011
バルトーク 歌曲集「村の情景」より

「若者の踊り」Tanec mládencov
原詩 スロヴァキア民謡
作曲 ベルトーク・ベーラ (1924/26年)



この曲の歌詞は、残念ながら意味がよく分からない。分かったのは樺の森に若者が集まって、動物たちと共に踊るという意味を「含んでいる」ことだけ(韻ふみ遊びの詩?)。残念ですがテキストと部分訳だけ掲げておきます。


Poza búčky, poza peň,
樺の木の後ろ、幹の後ろに
Poďže bratu, poďže sem!
おいで、みんな、おいでよ!
Poza búčky a klady,
樺の木とkladの後ろで
Tancuj šuhaj za mlady!
若い男たちは踊ろう!

Štyri kozy, piaty cap,
四頭の山羊と五羽のコウノトリが、(以下不明)
Kto vyskočí, bude chlap!
Ja by som bol vyskočil,
Ale som sa potočil.

bol=byl

Hojže, hojže, od zeme !
Kto mi kozy zaženie ?
A ja by ích bol zahnal,
Ale som sa vlka bál.

Poza búčky, poza peň,
樺の木の後ろ、幹の後ろに
Poďže bratu, poďže sem!
おいで、みんな、おいでよ!

バルトーク 歌曲集「村の情景」より 2

バルトーク・ベーラ (1881-1945)
09 /10 2011
バルトーク 歌曲集「村の情景」より

「結婚」Svatba
原詩 スロヴァキア民謡
作曲 ベルトーク・ベーラ (1924/26年)



A ty Anča krásna,
そしてお前、きれいなアンチャ、(アンの愛称)
Už vo voze kasňa,
もう家具は馬車に乗ってる、
Na kasni periny:
箱に入った新しいふとんを
Už ťa vyplatili.
もうお前は持ってる。
Hiiiii-
わあ-い!

kasňa=skriňa家具、衣装箱、perina(y)..新婚用の羽根ふとん

A z tejto dediny
この村から、
Na druhú dedinu
あの村へと。
Ideme opáčiť
みんなで行こう
Novotnú rodinu.
新しい家族のもとに。

dediny→dědina「村、集落」、opáčit=return, Ideme→jít(一・複)

(第一節繰り返し)

Kasňa je z javora,
衣装箱はカエデの木
Perina z pápera,
羽ふとんは羽根。
A to švarnô devča
そしてこのきれいな娘は
Už nemá frajera,
もう恋人はいない。
Hiiiii-
やあ-い!

Keď nemá frajera,
恋人ではなくて
Ale bude muža,
夫がいるなら
Nebude prekvitať,
華やぐことはない
Ako v poli ruža.
野ばらのように。

ako=jako

Ruža som ja, ruža,
薔薇、私は、薔薇のよう
Pokým nemám muža,
夫がいない間は。
Keď budem mať muža,
夫ができれば
Spadňe so mna ruža.
私の薔薇はしおれてしまう。

som=jsem、Pokým=while

Teraz sa ty, Anča,
さあお前、アンチャよ
Teraz sa oklameš:
さあお別れをいいなさい。
My pôjdeme domov
私たちは家に帰り、
A ty tu ostaneš.
お前はここに残るのだから。

-----------

オーケストラ版「村の情景」の第一曲は婚礼の情景。村を出る花嫁を祝福して囃したて、馬車に乗って新居に向かい、物思いに沈む花嫁と別れを告げる歌。娘時代の恋人同士という仲が終わって、一家を構えた夫婦となることへの不安を花嫁は歌う。リズミカルな祝祭の音楽のなかで。

「バルトーク大全集」の解説は前年(1923年)に初演されたスロラヴィンスキーのカンタータ「結婚」との関連を指摘している。このアンサンブルの小気味いい響き、リズムの魔術には確かに共鳴し合うものがあると思う。バルトークがこの時期のストラヴィンスキーの音楽を熱愛していたことは、当時のインタビューでも読むことができる。

スロヴァキア語のオンライン辞典、複数のチェコ語辞典、大全集の英語対訳を参照しましたが、まだ分からない箇所が残っていてこれも暫定訳です。

ストラヴィンスキー カンタータ「結婚」


バルトーク 歌曲集「村の情景」より

バルトーク・ベーラ (1881-1945)
09 /10 2011
バルトーク 歌曲集「村の情景」より

「子守唄」Bölcsődal
原詩 スロヴァキア民謡
作曲 ベルトーク・ベーラ (1924/26年)



„Beli fiam, beli,
「おやすみ、私の胸のなかで
aludj fiam lelkem!
おやすみ、愛しいわが息子よ!
Fogsze majd gondozni,
面倒をみてくれるかい
hej, mikor megöre – egszem?“
ああ、お母さんが年とったときに?」

„Foglak, anyám, foglak,
「おかあさん、みますとも
amig legény leszek;
けっこんしてないときは。
ha meghásasodom,
けっこんしたら、
hej, tetőled elme – egyek.
ああ、かあさんとおわかれしなくては。」

(独唱+合唱)
Mmm, aludjál, aludjál,
まあ、おやすみ、おやすみ
engem békén hagyjál!
もう、おいたをしないでね!
Amig békén nem hagysz,
おいたをしても
mmm, addig el nem alhatsz.
すぐに眠くなるわ。

Mmm, zöld erdőbe menj el,
ほら、行ってごらん、
fehér inged vedd fel;
緑につつまれた山に
ingecskéd fehérlik,
緑につつまれた山に
mmm, a zöld erdőn végig.
白いスカーフをつけて。

Mmm, fehér ingecskédet
ほら、白いスカーフは
Maris varrta néked,
マリシュカが縫ったもの
zöldelő berekbe
絹糸で縫ったもの
mmm, selyemmel himezte.
緑の野原で。

(独唱)
Beli fiam, beli,
おやすみ、私の胸のなかで
fehérszárnyú tünder!
私の白い天使よ!
A fekete földbe,
私をおいて行かないで、
hej, csak el ne repü – ülnél!
黒い大地の中に!

Beli, kicsi fiam, beli . . .
おやすみ、いとしい子よ、おやすみ.
------

バルトークは1924年に5曲からなるピアノ伴奏歌曲集「村の情景 Falun」を作曲した。そして1926年にアメリカ作曲家同盟からの委嘱により、うち3曲を合唱とオーケストラ伴奏版に作曲した。後者の初演は1927年2月にニューヨークでクーゼヴィツキーの指揮により行われた。(「バルトーク大全集」解説より)

この曲集は、ピアノ伴奏版はハンガリー語、オーケストラ版ではスロヴァキア語の歌詞で歌われ、この曲はオーケストラ版の第二曲です。ハンガリー語の辞書が今手元に無いので、スロヴァキア語から訳しました。複数の対訳を参照しましたが、どれも?or!の箇所があり、不明の語彙もあるので暫定訳です。

浮かんできたのはこんな光景です。むずかり駄々をこねる子供をあやしながら、母親は民話の一節を語り始める。すると子はその情景に引きこまれていき、やがて眠りに入ってしまう。この意識が夢の世界に入っていくさまを描いた、魔のかかったような合唱の響き。最終行「黒い大地にdo tej čiernej zemi」は死と埋葬を暗示していて、生も死もほんの身近にあった当時の村の情景を思わせます。

バルトーク「20のハンガリー民謡」より

バルトーク・ベーラ (1881-1945)
10 /02 2010
思うところがあって再upします。
バルトークの「20のハンガリー民謡」(Húsz Magyar Népdal 1929年) より



第1類 悲歌 I. sorozat (Szomorú nóták)
I.地下牢 A Tömlöcben♪

Minden ember szerencsésen,
人はみな幸せに生きている、
Csak én élek keservesen,
ただ俺だけが、辛く生きている
Fejem lehajtom csendesen
俺は頭を静かに垂れて、
Csak úgy sírok keservesen.
ただ辛い涙を流すだけ

minden:すべての、ember:人、男、szerencsése:運がよい、幸福な
csak: ただ~のみ、én:私、élek: életben「暮らす、生きる」の一人称単数
keservesen: 厳しく、辛く、fejem: fej頭を、lehajtom→lehaj屈む、屈する
csendesen: 静かに、ひそやかに、sírok「私は泣く」→síro


Olyan nap nem jött az égre,
そうして、太陽は空に昇ることはない
Könnyem ne hulljon a földre,
俺が涙を地上に落とすことなしには。
Hull a földre, hull ölembe
涙の粒は地に落ち、膝に落ち
Hull a gyászos kebelembe.
悲しい胸の中に落ちる。

olyanそのように、nap太陽、nem否定辞、jött→jönn来る、至る
ég天界の、空の、Könnyem: Könny涙の雫、ne = nem
hulljon →hullogatni「少しづつ落とす」?,földre: föld 土、大地、
ölembe: ölébe膝、gyászos: 悲しむべき、痛ましい、kebelembe : kebel胸+接尾辞


Bolthajtásos az én szobám,
俺の房は石の屋根で、
Még a holdvilág sem süt rám;
月の光すら俺を照らすことはない。
Hát a fényes napsugárja
だから、太陽の光が
Hogy sütne hervadt orcámra!
萎れたこの顔を照らすことがあろうか!

Bolthajtásos: vaultのことか?、szobám: szoba部屋、房
Még: まだ、さらに、holdvilág: 月の光、sem = se ~もまた~ない
süt:焼く、あぶる、rám:私のことを、hát: それゆえに、であるから
fény:光、光源、napsugár:太陽の光、hervadt:枯れた、萎れた、orca:頬、顔


Azt sohasem hittem volna,
俺はかつて信じもしなかった。
Tömlöc oldalamat rontsa,
地下牢が俺をひどく痛みつけ、
Piros orcám meghervassza,
紅顔を蒼白にし、
Bodor hajam levásítsa.
ちぢれた髪を抜けさせようとは!

azt:定冠詞azの第四格(~を)
soha決して~しない、かつて~ない、hitet:信じる
tömlöc:(城内の)牢獄、
oldal:脇腹 例文: a totok fúrja az oldalát「秘密が彼をひどく悩ます」
piros:赤い、朱のorcá→orca頬、表
meghervassza:未詳meghal「死ぬ」+接尾辞か?
bodor:ちぢれた、入り乱れた
hajam:haj(hair)、levásítsa→levet= wear off?


Ne sírj, kedves feleségem,
泣くな、愛しい妻よ
Ne zokogj, édes gyermekem!
すすり泣くな、愛しい子供たちよ!
Gondodat viseli az Isten,
神様がお前たちを気遣ってくださり、
Kiszabadulok még innen.
さらに俺をここから放免してくださる!

kedves:愛しい、feleség:妻、zokogj:zokogすすり泣く
kedves= édes、gyermekem:gyermek子供たち、Gondodat=gondolat考える、Isten:神
Kiszabadulok: Kiszabad釈放、放免、még:まだ、さらに、innen:ここから

--------------

地下牢に幽閉された囚われ人の嘆きの歌。バルトークは採集した原民謡の旋律を変えずに、男の葛藤と狂気の発作をピアノに語らせている。暗闇の中の観客に囚人たちの姿は重なり、さらに、曲が進むにつれて演奏家たちの表情は曇り、やがて歌い手は心底脅えた表情に変わる。彼らは共産圏時代に周囲に起こった数々の出来事を、否応なしに思い出したのではないか。

罪もなく、理由も明らかにされず、ある日突然共産国の暗闇の中に投獄された同胞。残り一人が心身を傷つけられることなく、無事に解放されることを心から祈る。そして事実を直視しよう。

ISATT

愛好する歌曲・カンタータの試訳集です。