ドビュッシー 歌曲「忍び音に」

クロード・ドビュッシー(1862-1918)
10 /28 2014
ヴェルレーヌの詩「En Sourdine」にはガブリエル・フォーレとドビュッシーの両者が作曲しているが、両者の資質の違いがこれほど浮き彫りになる曲はほかにないだろう。まずフォーレの曲を聴いてみよう。

まず感じるのは、フォーレはロマンチックな恋の物語として描いていることだ。曲想は穏やかで、まるで子守り歌のようだ。秋の夜の公園、夜鶯の声、木の下で語り合う恋人たち。伝統的な設定としてはその通りなのかもしれないが。

詩の第3節冒頭、もっとも高揚するくだりを、フォーレは次のように付曲した。
Ferme tes yeux à demi,/Croise tes bras sur ton sein,
目をなかば閉じて、両腕を胸に組み、
Et de ton coeur endormi
まどろんだ君の心から...
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男が愛する女に穏やかな語りかけているかのような、甘い旋律。

しかしドビュッシーは違う。ピアノが奏する夜鶯の声とともに現れるのは、まるで意識の底の囁きのような、男の姿を借りて、何か別の存在が二人の間に忍び寄っているかのような、危ういものを秘めた響きだ。
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この対比は、フォーレが19世紀の、そしてドビュッシーが20世紀の音楽家ということなのかもしれない。


Fêtes Galantes I 「艶なる宴 第一集」

En sourdine 「忍び音に」

クロード・ドビュッシー 作曲 / 原詩 ポール・ヴェルレーヌ

Calmes dans le demi-jour
ほの明かりのなかに、静けさを
Que les branches hautes font,
高みの梢がつくり出した。
Pénétrons bien notre amour
ぼくらの恋に沁ませよう。
De ce silence profond.
この深い沈黙を。

Fondons nos âmes, nos coeurs
とかし合わそう、私たちの魂を、心を、
Et nos sens extasiés,
そして私たちの恍惚を。
Parmi les vagues langueurs
漠とした物憂さに囲まれて
Des pins et des arbousiers.
松の木や、山桃の木のつくる、物憂さに。

Ferme tes yeux à demi,
目をなかば閉じて、
Croise tes bras sur ton sein,
両腕を胸に組み、
Et de ton coeur endormi
まどろんだ君の心から
Chasse à jamais tout dessein.
どんな考えも永遠に追ってしまいなさい。

Laissons-nous persuader
私たちは身をまかせよう、
Au souffle berceur et doux
二人をやさしく揺するそよ風に。
Qui vient, à tes pieds, rider
風は君の足もとに
Les ondes des gazons roux.
枯葉の芝のさざ波をつくる。

Et quand, solennel, le soir
やがて、おごそかに夕暮れが
Des chênes noirs tombera
黒い樫の木から落ちてくるとき、
Voix de notre désespoir,
私たちの絶望の声、
Le rossignol chantera.
夜鶯が歌うだろう。

ドビュッシー 歌曲「幾列もの生垣は」

クロード・ドビュッシー(1862-1918)
10 /26 2014
♪「幾列もの生垣は」L'échelonnement des haies

クロード・ドビュッシー作曲 / ポール・ヴェルレーヌ原詩
演奏:P.ベルナック&プーランク

L'échelonnement des haies
幾列もある生垣は、
Moutonne à l'infini, mer
果てしない海の白波(羊)のよう、
Claire dans le brouillard clair,
淡い霧につつまれた澄んだ海は、
Qui sent bon les jeunes baies.
青い野薔薇の実の、よい香りがする。
 
Des arbres et des moulins
木々と風車は、
Sont légers sur le vert tendre,
すらりと立つ、やわらかな緑の上に。
Où vient s'ébattre et s'étendre
その上ではしゃぎ回り、くつろぐのは
L'agilité des poulains.
身軽な子馬たち。

Dans ce vague d'un Dimanche,
この日曜日のぼんやりとした気分で
Voici se jouer aussi
同じく戯れているのは、
De grandes brebis,
大きな雌羊たち、
Aussi douces que leur laine blanche.
白い毛並みもまた、優しげだ。

Tout à l'heure déferlait
たった今、波は砕け、
L'onde roulée en volutes,
轟いて渦を巻いた、
De cloches comme des flûtes
フルートのような鐘の音を
Dans le ciel comme du lait
ミルクのような白い空に響かせて。

*moutonnement de la mer「海の羊=白波」。
白い波頭がたくさん立った様子を羊の群れに見立てた。
*baie「野薔薇などの実」のほかに「入り江」の意味もある。

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ドビュッシーは少年時代から海が大好きだったという。事実、海を題材にした歌曲は、どれもドビュッシー自身が夢中になって筆を走らせている様子が伝わってくる。このプーランクのピアノは、作曲家のピアノで描かれた「海」の新しさを伝えてくれる。

冒頭のこの音型は、遠くから聞こえる波の音が、次第に近づいてくる情景。

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そして最終節、波が砕け、渦を巻くという場面。この五音音階の音型も、楽譜で見ると打ち寄せる波の姿を写しているかのように見える。

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この曲のピアノは、ドビュッシーの耳が捉えた潮騒の響き。いわば海の声がひとの歌を伴奏している。自然の声と人の声が、対等の存在として交唱しているのだ。

ドビュッシー 歌曲集『抒情的散文』 より

クロード・ドビュッシー(1862-1918)
10 /21 2014
歌曲集『抒情的散文』 Proses lyriques

作詞・作曲 クロード・ドビュッシー 

第四曲「夕暮れ」


Dimanche sur les villes,
都会の上の日曜日、
Dimanche dans les coeurs!
心の中の日曜日!
Dimanche chez let petites filles,
小娘たちの日曜日、
Chantant d'une voix informée,
揃わぬ声で歌っているが、
Des rondes obstinées,
堅固な丸塔のある、
Ou de bonnes tours
頑丈な望楼も
N'en ont plus que pour quelques jours!
数日しかもたないだろう!

Dimanche, les gares sont folles!
日曜日、鉄道駅は大変な騒ぎ!
Tout le monde appareille
誰もが揃って
Pour des banlieues d'aventure,
郊外へと冒険に繰り出す
En se disant adieu
ごきげんようと言いながら
Avec des gestes éperdus!
うわの空の様子で!

Dimanche les trains vont vite,
日曜日、列車はまっしぐらに
Dévorés par d'insatiables tunnels;
貪欲なトンネルに呑まれる。
Et les bons signaux des routes
そして線路脇の親切な信号機は
Echangent d'un oeil unique,
一つ目で合図をやりとりする。
Des impressions toutes mécaniques.
まったく機械的な印象を。

Dimanche, dans le bleu de mes rêves,
私の青い夢のなかの日曜日、
Où mes pensées tristes
私の悲しい思いは
De feux d'artifices manqués
不発の花火(のよう)で
Ne veulent plus quitter
止めようとしない。
Le deuil de vieux Dimanches trépassés.
去りゆく日曜日を悼むことを。

Et la nuit, à pas de velours,
そして夜は、ビロードの足取りで
Vient endormir le beau ciel fatigué,
美しく、疲れた空を眠らせにくる。
Et c'est Dimanche dans les avenues d'étoiles;
そして星の並木道のなかの日曜日。
La Vierge or sur argent
銀地に金の聖母様が
Laisse tomber les fleurs de sommeil!
眠りの花を落とす!

Vite, les petits anges,
急いで、小さな天使たち
Dépassez les hirondelles
ツバメたちを追い越して
Afin de vous coucher
お前たちが眠るために
Forts d'absolution!
ちゃんと罪の赦しを頂いて!

Prenez pitié des villes,
街を憐れみたまえ、
Prenez pitié des coeurs,
人の心を憐れみたまえ、
Vous, la Vierge or sur argent!
銀地に金の聖母様!

***

「美しき夕べ」から数年後に書かれた、ドビュッシーの作詞・作曲による『抒情的散文』の第4曲。何かとりとめのない歌詞だけれども、これはヴェルレーヌの詩の影響で、先にドビュッシーが作曲したPaysages beles. Chevaus de bois 「ベルギー風景。木馬」を連想する。あの曲ではメリーゴーランドに乗って目の前に次々と現れてくる人々が描かれていたが、この曲ではドビュッシーの目に映った(そしてドビュッシーの愛した)日曜日の点景が、羅列されている。

そしてヴェルレーヌが詩節ごとに文体を変えて群像を描いたように、この曲のピアノは歌の情景を二人目の歌い手のように交錯して描いている。時の移り変わりさえも!冒頭の教会の朝の鐘の音は、賑やかに歌う少女たち、混雑する鉄道駅の有様、列車の汽笛音、夕暮れの光、家に向かって走り出す子供たちの足音、そして夕べの祈りの鐘と変幻自在に変わる。こんなに素晴らしい光や物音が、一見平凡な日々には数えきれないほど眠っているんだよ、といわんばかりに。

ドビュッシー 歌曲「美しき夕べ」

クロード・ドビュッシー(1862-1918)
10 /20 2014
ヴェロニク・ジャンスの歌う、ドビュッシー初期の名作!

Beau Soir「美しき夕べ」
クロード・ドビュッシー作曲 / ポール・ブルジェ原詩



Lorsque au soleil couchant les rivières sont roses,
沈む太陽が川の流れを薔薇色に変え、
Et qu'un tiède frisson court sur les champs de blé,
生温かい微風が麦畑を駆け抜けるとき、
Un conseil d'être heureux semble sortir des choses
幸せになりなさいという声が万物から湧き上がり、
Et monter vers le coeur troublé.
思い悩む心に込み上げてくるかのよう。

Un conseil de goûter le charme d'être au monde,
それは現世の魅力を味わいなさい、
Cependant qu'on est jeune et que le soir est beau,
若く、夕暮れが美しいうちに、と勧める声。
Car nous nous en allons comme s'en va cette onde,
なぜなら我々は去るのだから、あの波のように、
Elle à la mer, nous au tombeau.
波は海へ、我らは墓へと。

* * *
12音節X3+8音節x1の4行詩・2詩節。長い音節の詩を描くために、ドビュッシーは深々と呼吸するような旋律を付けている。(対訳では、句読点をなるべく削り、音節の長い語彙を選んでみた)。そしてこのピアノ、ゆったりと流れる川の水と反射する夕焼けの光を、こんなに簡潔に音符に写すことが出来るなんて。。この自然の物音や光が歌を伴奏するようなドビュッシーの歌曲の魅力を、もう一度辿ってみようと思う。

ドビュッシー 歌曲「彼女が入ってきたとき」

クロード・ドビュッシー(1862-1918)
09 /16 2013
Lorsqu'elle est entrée「彼女が入ってきたとき」

作詞・作曲 クロード・ドビュッシー

(2分15秒から)
Lorsqu'elle est entrée, il m'a semblé
彼女が入ってきたとき、私は感じた
Que le mensonge traînait aux plis de sa jupe;
彼女の幻がペチコートの襞を引きずっているのだと
La lueur de ses grands yeux mentait,
彼女の大きな瞳の微かな光は欺いていた、
Et dans la musique de sa voix,
そして彼女の歌声のうちに(欺いていた)
Quelque chose d'étranger vibrait.
何か得体の知れぬ、震えるものの存在を。
C'étaient les doux mots que je connais si bien,
それは私のよく知る甘い声だった、
Mais ils me faisaient mal et entraient en moi doulouresement.
しかしそれは不快で、苦痛だった。
Qui donc a usé son regard?
いったい何が彼女の容貌を衰えさせたのか?
Qui donc a fané la rougeur de sa bouche?
いったい何が彼女の真紅の唇を萎びさせたのか?

D'où vient cette lassitude heureuse
すると、あの幸福な疲れが
Qui semble avoir brisé son corps
彼女の肢体を衰えさせたのだろうか
Comme une fleur trop aimée du soleil?
太陽に愛され過ぎた花のように?
Oh! torturer une à une les veines de son cher corps!
おお、ひとつ、またひとつと彼女の美しい肢体の静脈を苛み、
L'anéantir et le consumer, ensevelir sa chair dans ma chair,
破壊し、憔悴させ、彼女の肉体に私の肉体を挿入する、
Avec la joie amère de l'impossible pardon!
容赦のない、苦い快楽とともに。
Tout à l'heure ses mains plus délicates que des fleurs
間もなく、花よりも繊細な彼女の手が
Se poseront sur mes yeux et tisseront le voile de l'oubli...
私の目を覆い、忘却のベールを織るだろう。
Alors mon sang rebattra, les plaies rouges de mon coeur saigneront, 
すると私の血は再び燃え、私の心臓の真紅の傷は血を流し、
et le sang montera noyant son mensonge et toute ma peine.
昂った血は呑み込むだろう、彼女の幻と私の苦痛のすべてを

Mentait→mentir、Faisaient→faire直説法半過去(三・複)、D'où以上のことから、だから、noyant→noyer現在分詞

ISATT

愛好する歌曲・カンタータの試訳集です。