ガブリエル・フォーレ 歌曲集「幻想の水平線」より

ガブリエル・フォーレ(1845-1924)
05 /22 2012
ガブリエル・フォーレの最後の歌曲集は、第一次大戦で若くして戦死したJean de la Ville de Mirmont (1886-1914) の遺作詩集「幻想の水平線」による。夭折の詩人と、死を前にした老作曲家の二人の幻想の旅は、ピアノの伴奏の高鳴る動悸のような波の音とともに幕を開ける。

全4曲を通奏する潮騒の音、洋上に輝く月の光...海をモチーフにしたフランス歌曲のなかでも、自分も海辺に立ち、潮風を呼吸しているような鮮烈な印象を残す曲集。そして航海の果てにふたりが辿り着く岸辺、平凡な日常のなかに眠っている、かけがえのない人生の輝きを見出した主人公の最後の台詞は、聴く人にいつまでも響き続けるのではないだろうか。

...j'ai de grands départs inassouvis en moi.

***

ガブリエル・フォーレ 歌曲集「幻想の水平線」より
第一曲「海は果てしなく」 La Mer est infinie 




La Mer est infinie et mes rêves sont fous.
海は果てしなく、ぼくの夢は狂おしい。
La mer chante au soleil en battant les falaises
海は太陽に向かって歌う、断崖に打ちながら。
Et mes rêves légers ne se sentent plus d'aise
ほくの軽やかな夢は、嬉しさに我を忘れ、
De danser sur la mer comme des oiseaux soûls.
海面に踊り狂う、酔いしれた鳥のように。

Le vaste mouvement des vagues les emporte,
波の大いなる躍動はぼくの夢を運び
La brise les agite et les roule en ses plis;
そよ風は揺すり、その小波のなかにくるみ、
Jouant dans le sillage, ils feront une escorte
航跡に戯れ、伴走する船となる、
Aux vaisseaux que mon coeur dans leur fuite a suivis.
ぼくの心が追いかけた、遠ざかってゆく船たちに。

Ivres d'air et de sel et brûlés par l'écume
大気や潮に酔い、海の泡に灼かれるが、
De la mer qui console et qui lave des pleurs
その海はぼくを慰め、涙を洗い流してくれる
Ils connaîtront le large et sa bonne amertume;
ぼくの夢は外海と、その心地よい潮の苦みを知るだろう。
Les goélands perdus les prendront pour des leurs.
迷ったかもめたちは、ぼくの夢を仲間だと思うだろう。

ガブリエル・フォーレ 歌曲集「よき歌」3

ガブリエル・フォーレ(1845-1924)
04 /14 2012
La lune blanche luit dans les bois
「白い月が森に輝く」♪ 

原詩 ポール・ヴェルレーヌ
作曲 ガブリエル・フォーレ (op.61 1892-94年)


La lune blanche
白い月が
luit dans les bois.
森に輝く。
De chaque branche
それぞれの枝から
part une voix
生まれる声が
sous la ramée.
木陰に。
O bien aimée....
おお、愛しい人よ。

L'étang reflète,
池は映す
profond miroir,
深い鏡のように
la silhouette
シルエットを
du saule noir
黒い柳の(シルエットを)
où le vent pleure.
そこで風は泣く、
Rêvons, c'est l'heure.
夢見よう、今はその時、

Un vaste et tendre
果てなく、優しく
apaisement
心和らぐ思いが
semble descendre
降りてくるようだ
du firmament
天空から。
que l'astre irise.
星は空を虹色に染める。
C'est l'heure exquise!
今こそ、妙なる時!


* * *
「よき歌」La Bonne Chanson 第3曲。

第二曲のピアノが奏でた約20年前の若き日の歌曲、「リディア」の旋律が、この歌ではO bien aimée....という呼びかけの前に置かれていて、今は思い出のなかだけにある人への思いを暗示している。繊細な色彩感と響きのある詩と、曲に込めたフォーレ自身の思い。それらを包む自然の変わらぬ美しさ!人と結ばれることで、聴こえなくなっていた自然の音も、気付かずにいた色も、新たに感じられるようになる時。ジェラール・スゼー(Br)とボールドウィン(pf)のコンビによる、旧盤の録音です。

こちらはポストリッジによる弦楽伴奏版:


スザンヌ・ダンコの古典的名演!:

ガブリエル・フォーレ 歌曲集「よき歌」2

ガブリエル・フォーレ(1845-1924)
04 /02 2012
「よき歌」第2曲 

「日が明けていくので Puisque l'aube grandit



Puisque l'aube grandit, puisque voici l'aurore,
日が明けていくので、夜明けの光があるので、
Puisque, après m'avoir fui longtemps, l'espoir veut bien
ぼくから長い間逃げていた希望が
Revoler devers moi qui l'appelle et l'implore,
彼女を呼び懇願している自分に、再び戻ってこようとしているので、
Puisque tout ce bonheur veut bien être le mien,
この幸せが、すっかり自分のものになろうとしているので、

(三節略)

Je veux, guidé par vous, beaux yeux aux flammes douces,
ぼくは君に導かれ、君の優しい炎のような美しい目に導かれ、
Par toi conduit, ô main où tremblera ma main,
君に手を引かれて...おお私の手は震えてしまう
Marcher droit, que ce soit par des sentiers de mousses
歩むのだ、正しい方向へ、苔むした小道であっても、
Ou que rocs et cailloux encombrent le chemin ;
岩や小石に塞がれた道だとしても。

(一節略)

Et comme, pour bercer les lenteurs de la route,
そして、道のりの遅さを紛らわすために、
Je chanterai des airs ingénus, je me dis
ぼくは無邪気な歌をいくつも歌おう、そして自分に言い聞かせる、
Qu'elle m'écoutera sans déplaisir sans doute ;
彼女は聞いてくれるだろう、嫌がりもせず、疑いも持たずに。
Et vraiment je ne veux pas d'autre Paradis.
本当にぼくは、それ以外の天国など望まない。


* * *

フォーレは過去の陰鬱な思いを描いた節を削除し、全7節のうち3節に作曲した。ピアノは過去の恋人のテーマ(初期歌曲「リディア」の引用)を導入する。

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ガブリエル・フォーレ 歌曲集「よき歌」1

ガブリエル・フォーレ(1845-1924)
03 /31 2012
ガブリエル・フォーレ 歌曲集「よき歌」

原詩 ポール・ヴェルレーヌ(1844-1896)
作曲 ガブリエル・フォーレ(作曲1892-94年)



第一曲「後光のなかの聖女様」

Une Sainte en son auréole,
後光のなかの聖女様、
Une Châtelaine en sa tour,
塔のなかのお姫さま、
Tout ce que contient la parole
あなたはすべてを包容する、
Humaine de grâce et d'amour.
ひとの気品と愛の言葉を。
*le parole humaine

La note d'or que fait entendre
黄金の調べを響かせる
Le cor dans le lointain des bois,
森の奥の角笛は、
Mariée à la fierté tendre
優しい誇りとひとつになる、
Des nobles Dames d'autrefois;
いにしえの貴婦人の(誇りに)。

Avec cela le charme insigne
その輝かしい魅力とともに
D'un frais sourire triomphant
爽やかで勝利者のような微笑が
Éclos dans les candeurs de cygne
花開く、白鳥の純真さと
Et des rougeurs de femme-enfant;
童女の紅顔のうちに。

Des aspects nacrés, blancs et roses,
真珠のような容貌、白色と薔薇色、
Un doux accord patricien:
貴族にふさわしい甘美な調和;
Je vois, j'entends toutes ces choses
ぼくは見る、ぼくは聴く、これらすべてを
Dans son nom Carlovingien.
君のカロリング朝の名前のなかに。

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フォーレの歌曲集「よき歌」は、どうも違和感を持ち続けていた。これより前に作曲した「月の光」や歌曲集「ヴェネチアより」の流麗をきわめた作風と異なって、この第一曲のプリミティブにすら聴こえる伴奏や旋律..これは一体何だろうと首をひねってばかりいた。しかし今回第一曲の歌詞に向き合ってみると、分かってきたように思う。当時25歳のヴェルレーヌとわずか16歳の若妻マチルド・モーテ。それを描いた40歳半ばのフォーレ。この第一曲ではマチルドのテーマが現れる。まさにles candeurs de cygne et des rougeurs de femme-enfantであって、古風な彼女の名前が呼びおこす古楽のような響きをフォーレは意識していたのだろう。

マチルドを見つめるヴェルレーヌと、ふたりをみつめるフォーレの三人の意識が不思議にからみ合うこの歌曲集。弦楽合奏版で聴くと、その対位法的な面白さがよく分かる。もう一度第一曲から聴いてみようと思う

マチルドのテーマ
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ガブリエル・フォーレ 歌曲集「よき歌」より2

ガブリエル・フォーレ(1845-1924)
03 /04 2012
ガブリエル・フォーレ 歌曲集「よき歌」La bonne chanson より

原詞 ヴェルレーヌ
作曲 ガブリエル・フォーレ(1892-94年)

第8曲「ね、そうだろう?」N'est‑ce pas?


(フォーレはこの節を省略)
N'est-ce pas? en dépit des sots et des méchants
ね、そうだろう?愚かで意地の悪い者たちが妬んで
Qui ne manqueront pas d'envier notre joie,
僕たちの歓びを必ず羨やむだろうが
Nous serons fiers parfois, et toujours indulgents.
僕たちは、時には誇り高く、いつも寛大でいよう。


N'est-ce pas? nous irons gais et lents, dans la voie
ね、そうだろう?僕たちは陽気にゆっくりと行こう、ベールをかぶって
Modeste que nous montre en souriant l'Espoir,
慎ましく、「希望」が微笑みながら示してくれる道を、
Peu soucieux qu'on nous ignore ou qu'on nous voie.
気にしないで、人が僕たちを知らなくても、見ていようとも。

Isolés dans l'amour ainsi qu'en un bois noir,
愛の中に閉じこもり、暗い森にいるように
Nos deux coeurs, exhalant leur tendresse paisible,
僕たち二人の心は、温かな優しさを立ち昇らせて
Seront deux rossignols qui chantent dans le soir.
夜に歌う二羽の夜鶯のようになろう。

(フォーレはこの節を省略)
Quant au monde, qu'il soit envers nous irascible
世間については、僕たちに怒ろうが
Ou doux que nous feront ses gestes? Il peut bien,
優しかろうが、何をしてくれよう? それはできる
S'il veut, nous caresser ou nous prendre pour cible.
僕たちを愛撫することも、中傷の的にすることも。

Unis par le plus fort et le plus cher lien,
この上もなく力強く、親しい絆で結ばれて
Et d'ailleurs, possédant l'armure adamantine,
その上に、ダイヤモンドのような堅い鎧をして
Nous sourirons à tout et n'aurons peur de rien.
僕たちは全ての人に微笑み、何も恐れずにいよう。


Sans nous préoccuper de ce que nous destine
僕たちは[Le Sort運命が]何がもたらすのか気にせずに
Le Sort, nous marcherons pourtant du même pas,
それでも同じ足取りで歩いていこう
Et la main dans la main, avec l'âme enfantine.
手に手を取って、子供のような魂で。

De ceux qui s'aiment sans mélange, n'est-ce pas?
子供の純粋な愛で、ね、そうだろう?

ISATT

愛好する歌曲・カンタータの試訳集です。